作品感想&紹介

【感想】武器としての「資本論」白井聡著

読書感想文です。
以下帯の内容を引用しますが、
誰しも一度は同じ疑問を抱いたことはないでしょうか?

資本主義を内面化した人生から脱却するための思考法
なぜ格差社会が生まれるのか
なぜ上司がイヤな態度をとるのか
なぜ自己啓発書を何冊読んでも救われないのか
なぜ毎日、満員電車で押しつぶされながら会社に行かなければならないのか
なぜ人生がつまらないのか
なぜ東京都民は「さみしさ」をかみしめるべきなのか

私たちが直面する疑問に答える

武器としての「資本論」帯より

手にとった理由:
自己啓発書を読んでも救われなかった人だから

ことの始まりは10代の頃。

10代のいぇん

この人生のうまく行かなさは資本主義にあるのでは?


とぼんやり思っておりました。
成果の出ること=価値があること
といつの間にやら刷り込まれていました。
テストで成績が悪ければ価値がないことになり、
いい大学に入れなければ価値がないことになり、
いい子でいなければ価値がないことになる。
私の常識はいつの間にかそうなっていました。

なので大学を卒業出来なかった私、
内定を落とされた私は、社会からすれば価値がないものになり、
そんな自分が情けなくて悔しくて、
一生懸命自己啓発書を読んでみたけれど、
落ち込むばかりでありました。

歳を重ねて今はもう開き直りつつあり、
10代20代のように苦しみ悶えて仕事を無断欠勤して田舎の両親に連絡される
なんてことはしなくなりました。
でもこの資本制のシステムに良いように巻かれながらも、
いまもどこかぼんやりとした不安を抱えて生きておりました。

本を読んで気づいたこと:
自分の命が商品になっている

この本は、資本論のキーワードをかいつまむ形で説明するだけでなく、
それが現代社会で言うところのどんな状態を指しているのか、説明してくれます。
なので自分ごととして読みすすめることが出来ます。
その中で心をとらえられた一文と感想を綴ります。

お金の目的はただ「増えること」それだけ。

資本はとにかく増えること、ただひたすら量的に増大することを目的としています。その他のことはどうでもいいのです。「増えることによって、人々が豊かになる」ことは資本の目的ではありません。

武器としての「資本論」P101

現代のお金を中心とした資本制の社会システム。
主役である「お金」の目的は、貧しい人々を救うため、世界を笑顔にするためではない。
ただ増大すること。
これは中々ショッキングではありますが、生命の目的と似ていると感じました。
世界には多種多様な生命がありますが、
世代交代をしたり(しなかったり)して、
どうにか得たDNAを細く長く、死から逃げ続けようという生命の運動と、
増大し続けることを目的とする資本は似ています。
生命には幸せになろうなんて目的はありません。
絶滅さえしなければ何でもOKなのです。
お金と一緒です。

お金を多くもてば幸せになれると信じる時もありましたが、
延々に増え続けることができる際限のないお金に、
いつ私たちは満足と幸せと安心を得ることができるでしょうか。
1円だったら安心できた時代が、10円でも不安で、100円でも不安で、1000円でも不安になります。

お金はSTOPしませんが、
自分たちの心でSTOPを掛けることはできると気付きます。

資本家の狙いは資本だけ

搾取を持続させるために、工場法を制定して労働者を保護したというわけです。

武器としての「資本論」P134

産業革命時のイギリスの話です。
10才未満の子供も一日16時間働かされる劣悪な労働環境をやめようと、
工場法なるものが制定されました。
これは人権保護の目的のように聞こえますが、
(学校の世界史ではそんな風に教わった気もします)
資本はそんな生ぬるいものじゃありませんでした。笑

一日16時間も働かせると、労働者がばたばた死んでいき、
効率が悪いからです。
人はただ眠る時間だけ与えておけばいいというものでもなく、
どうやら余暇を楽しめるだけの給料や時間も与えたほうが、
より効率よく働いてくれそうだぞ、ということを資本家が気づいたわけです。
だから福利厚生を整えてやっているわけです。
効率良く働かせるためです。
人権を考えてとか、可愛そうだから…なんて感情の話ではないのですね。
ただ資本を増やすために最大効率を目指しているんですね。無邪気に。

足るを知る者は富む、それが本当の資本家

「資本家としては、彼は単に人格化された資本にすぎない。彼の魂は資本の魂である。しかるに、資本はただ一つの生活衝動を、自己を増殖し剰余価値を創り出す衝動を、その不変部分、生産手段をもって、能うかぎり多量の剰余価値を吸収しようとする衝動をもっている。」

武器としての「資本論」P253

世の資本家の目的は何なんでしょうか。
「世界のTOP十数人の資産で、貧困層何億人の生活を賄える」なんて話を聞きます。
彼らが持つ資産をなげうって貧困層を助けることはしない理由を、
ただ増え続けたいと願う資本の気持ちになって一生懸命想像してみます。

貧困層を救うよりも、貧困層があることでより儲けられるビジネスがあるのだと思います。
貧困層を残すことのほうが、資本にとってメリットがあるんでしょう。

資産家が見ている景色は、
お金がどんな風に増えて流れていくのかというもので、
山だとか海だとか、動物や人々の営みが見えているわけではないのだと知りました。

私は増える続けようとするお金を「もういいや」といえた時に、
本当に富んだ人と言えるのかなと思いました。
足るを知る人は富む。「自分はこれで満足だ」と言い切れた時、
真の意味で富を知り、豊かな人と言えるのだと思います。

アクション:私はダダを捏ねることにした

資本家が効率よく資本生むためには、
「身分や縁故から切り離された、自分では何も出来ない労働力」を求めています。
言い方を変えると
「自由で!可能性に溢れた!そこのYOU!」という意味です。

そんな人々は自分の命といえる時間を差し出して、
「私の1時間分の命を、1000円と引き換えに提供します」と、
紙ペラで契約書を交わしているのですね。
これはまさに私の姿だなと理解しました。

資本家は資本を増やすためなら何でもします。
何でもお金で交換可能なものにしようとします。
育むことでしか得られないと思っていた愛も、
努力をすることでしか手に入れられないと思っていた知識も、
親からもらったと思っていた身体や臓器も、
須らく平等と思われていた時間も、
今やお金を介して何かと交換可能です。

反抗しなければいけない

とある資本家

今月分から、貴方に支払っていた給料のうち、食費に当たる部分はカロリーメイトで支給することにしました。
貴方の身長体重、日頃の運動量、職場での運動量などから換算するに、これだけのエネルギーを必要としますので、その分を支給しますね!

とされたらどうしますか?
効率の鬼が、尤もらしいデータを伴ってそう迫ってきたとき、
僕は嫌だ!と叫べるでしょうか。

「あ自分偏食なので毎日同じ食事でも別にいいです」
「カロリーメイトのチョコ味が大好きなので、それでいいです^^」
とか
言っちゃだめです。私は言いかけましたが。

いい子でいようと思っていたので、鵜呑みにしかけてしまいました。
効率良く働くことが価値あることだと思っていました。
テストで良い点数をとること、いい大学に行くこと。いい子でいること。

これらの教えは資本家サイドが、
物質的豊かさ(あるいは不安)をチラつかせながら、
親や社会を通じて私に与えていた教育だったと知りました。

私たち庶民は、
そんな資本からの要請の皮を被った攻撃をまともに受けないために、
どうしたら良いのでしょうか。
これがこの本の最後に提言されています。

『美味しいものを食べよう』

私はこれを「お金に換算されないもの、私だけの感性を身の内側に蓄えよう」ということなのかなと思いました。
世の中の物質はお金の形になって、私の身体を素通りしていきます。
私たちは次から次へと新たな商品を手に入れて、用いて、捨てていきます。
でもただ素通りさせてはいけないのかもしれません。
私の身体を通り抜けた意味を持たせなければいけないのかも。
じっくり聞き、じっくりと眺め、じっくりと味わい、じっくりと触れ、じっくりと嗅ぐ。
受け取った情報を自分の中に蓄え、何度も反芻する。

そうすることで初めて、私を経た価値が生まれます。
私にしか得られなかった価値が生まれます。

何度も何度も、飽きずに反芻するものが人によってはありますね。
幼児がずっと同じ玩具で遊びを繰り返し続けているような。
何が好きなんて言葉では伝えられないけど、好きなんだよ!というものですね。
その気に入っている玩具を取り上げて、
「今から素晴らしい夢の国ディズニーランドに行くわよ!
それが楽しくて素敵で、ためになるから!」と言われても、
幼児は泣き叫んで嫌がるに違いありません。
そしてその態度こそ、
資本家に自分の命を切り売りされないための最後の抵抗なのかなと私は思いました。

私は随分長い間いい子でいました。
効率的でない自分に価値を感じられない時期もありましたが、
もうよいでしょう。
こうしてうだうだと考えを反芻する楽しみも持てる程度には安全な国に生まれたことも幸せに思います。
私に無価値を押し付ける資本からの要請に対し、
私は地団駄踏んで駄々を捏ねて抵抗できるよう、
これからもマイペースを極めたいと思いました。

奥付


著者:白井聡
発行者:駒橋健一
発行書:東洋経済出版社
装丁:秦浩司
帯写真:梅谷秀司
本文レイアウト・DTP:小林祐司
印刷:東湊出版印刷
製本:積信堂
編集協力:久保田正志
編集担当:渡辺智顕
ISBN:9784-492-21241-7

ABOUT ME
つきよの
昭和生まれのおひとりさま女性。人付き合い苦手、父親に殴られ男性不審、10年付き合った彼氏にお金を貸して破局、大学中退、うつ、社畜、不当解雇、といった経験を飯の種にして「自分に正直に生きる」をモットーにしています。人生いろいろありますよね。

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