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『阿・吽』第四巻レビュー【最澄と空海は遣唐使になれるのか?!】

こんにちは、いぇんです。
本棚にあるものを紹介する、「ぶらっと、本棚シリーズ」です。
おかざき真里先生の漫画『阿・吽』第四巻レビューです。

おかざき先生自身の紹介は下記の記事もご覧下さい!

おかざき真里先生の描く、最澄と空海。女性の感覚で描き出す真理の世界。漫画『阿・吽』1巻レビュー女性漫画家が描く最澄と空海。阿吽の第一巻レビューです。 同世代を生き、交わった二人の青年の阿吽を描き出します。 女性の感覚から捉える真理の世界を、繊細な線と間から感じ取る作品です。...
著:おかざき真里, その他:阿吽社
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第十八話 薬子

第十八話のコマは選びにくいです。というのもエロすぎて……。

宮中の場面。桓武天皇の息子、安殿親王も参加する宴にて、藤原薬子の姿あります。
(桓武天皇の共、長岡京移転を取り仕切っていた折暗殺された、藤原種継の娘が薬子)
その藤原薬子の娘と安殿親王をくっつけて、天皇と懇意にやっていこうという魂胆でした。

藤原薬子は落ちぶれた貴族の女となり、周囲からは陰口を言われ、夫からも虐げられる始末。旦那に従順な妻を演出していますが鬱屈しながら生きています。
安殿親王も何をやらせてもうまくいかず、薬子と同じように周囲から才能のない、出来損ないの人間だという無言の圧を感じ取って、劣等感に苛まれます。

簡単にいうと病んでる二人です。
その二人が体で結びつき合うという鬱展開です。

第十九話 安殿(あて)

薬子と通じ合うようになった安殿は人が変わったように活躍をし始めます。
勉学に励んだり、人を指揮し、一目置かれ、生まれ変わったように振る舞い周囲を驚かせます。
薬子と互いの傷を舐め合うことで仮初の自信を手に入れます。
安殿のプライドを傷つけるものの排除に薬子は動きますが、
薬子と安殿の関係を桓武天皇に知られて、薬子は宮中から追放されます。
激昂した安殿は「自らの不利益を葬って何がいけないのか。あなたが昔やったことと同じではないですか」と言い募ります。
その背後には桓武天皇の実の弟、疑いだけで殺すことになってしまった早良親王の面影が重なり、桓武天皇は呪いから逃れるために遷都をしたけども、血縁に残る呪いが断ち切れていないのだと愕然とします。

安殿さんが絵的にめっちゃ怖いですよ。
劣等感に苛まれた少年の鬱屈した気持ちを解放するセックス。
それで容易く得た万能感にまた溺れる。
自分を確立する前から周囲の人間の声に惑わされ続けた少年の一悶着は、
この後の話でも続きます。

第二十話 天台法華講話(てんだいほっけこうわ)

最澄VS南都六宗という扉から始まります。
舞台は宮中からまた最澄と空海に戻ります。
桓武天皇と亡くなったイケオジ和気清麻呂の息子たちから、
桓武天皇が熱を入れる仏教の勉強会?的催しで、最澄の話を皆にするよう請われます。

権力に溺れている寺院を離れるために山に篭った最澄が、
その権力に溺れる寺院や僧を前に、仏教の教え(解釈)を説くのです。
お互いに面白いわけはなく、最澄勢も南都六宗勢もピリピリとしています。

が!そんなツマラナイ対立なんて関係ねえ!というのが空海です。
まだ正式な僧ではない空海ですが、勤操和尚の小間使い役として場に同席します。
そこで行われる、阿頼耶識(意識の中)で最澄と空海は対話します。

仏教の真理を見つめ合うものだけが繋がれる境地を、
言葉を発しながら、言葉を受け止めながら体験し合います。

私は仏教の世界を説明できるほどは知りませんが、
つまらない言葉の揚げ足取りする人間とは、話していて徒労感がありますよね?
一方同じものを追い求めている人とは、少し言葉の選びが違ったとしても、
その言葉の裏の心まで読み取れて気持ちがいい、ストレスがない。
胸の穴が繋がっているかのような気持ちよさ、風通しの良さを、
二人は感じているのでは、というのが私の解釈です。

第二十一話 三車火宅(さんじゅやかたく)

そんな二人の至福の時間を壊されます。
「最澄のいう全てを救うなんてまやかしだ!」という主張でバトル勃発。
お坊さん同士がこういうふうに言いあう現場は知らないので、
本当のところどういうやり取りがあるのか、知る由もないのですが……。

そしてバトル勃発の原因となった三車火宅の話も、よくわかっておらず…笑
また調べてみたいと思います。

空海は講話の途中でその場を辞して、唐に行きたいという思いを明確に持ち、師である勤操和尚にその意向を伝え、協力を依頼します。
一方最澄は、講話を受けたら遣唐使に推薦するという当初の話を反故にされてしまいます。

第二十二話 分水嶺

遣唐使についての解説が漫画内でもありますが、めっちゃお金がかかる。
空海は次の遣唐使人員決定までの2ヶ月で1200万集めるミッションが始まります。
特に空海は正式な僧でもないただの一般人。
しかし唐に行くと決めたからには止まることはありません。

1,200万は、単純に法具を買うための資金。
遣唐使の滞在費は唐側が負担します。(へー!)
他の費用は唐物といわれる、唐の文物を購入費用。

方々に頭を下げて協力を願うしかありません。
まずは空海の叔父であり、将来を期待して大学に入れてくれた(そして勝手に辞めた)阿刀大足。
権力者である藤原喜娘。(史実においては詳細不明の人物ですが、この漫画では格好良く描かれています!)
そして、にうつ。(次のお話で詳細に。涙なくしては見れない)
皆、空海の言葉に、彼が持ち帰ってくるであろうものに胸が踊ってしまい、
金や金に代わるものを分け与えていきます。

一方で最澄は約束を反故にされて、何度も嘆願します。
「もう個人の願いでどうこうなるレベルの話ではないのだよ」と諭されてしまいます。
桓武天皇のお気に入りとなった最澄を、命を落とす可能性のある遣唐使に派遣する必要はない。
その意向に絡め取られ始めています。
権力と離れて、純粋に仏教に向き合いたいのに。それができない最澄の心は荒んでいきます。
(でもしっかり、自分が行かないのなら代わりに持って帰ってきてほしい大量の経典をリストアップして送ってたりします)※健気。

全話の台詞の中にもありますが、
最澄は願いを文字にして表して、人の心にじわじわと浸み入るようにして人の心に触れます。
一方空海は人たらし(魅力がある)ので、会って話すとその人の心を動かしてしまいます。

どちらのやり方が正しいというわけではないのですが、
皆さんはどちらのやり方のほうが心地よいでしょうか。

第二十三話 約束

藤原喜娘と空海のバトル?回です。
殴り合いではなく、問答でのバトルですが笑

藤原喜娘、漢字からくる印象は可愛いですが、
勤操和尚と古くから馴染みのある女で肝っ玉母さんという風貌です。
仏教を厚く信仰し、寺にこれまでも熱心に寄進していました。
だからお金大好きマダム。勤操はその人を頼りにして来たのです。

しかしこのマダム、一筋縄では行かない。
空海と勤操に隠れてついてきた智泉を捕まえて、
四つ這いにさせて自分のおしっこを引っ掛けるという屈辱を与えます。
智泉は抗えません。
それに対してどんな反応を示すのか、空海をテストするためでした。

唐の言葉で問答し合う二人。最後空海は約束します。
「自分が戻ってきた暁には、金よりも大事なものを持って帰ってこよう」
するとマダムの胸の奥に、花がふわっと咲いたような、
期待に胸が膨らんでしまう、そういう言葉で締めくくられ、
マダムの協力を得ることに成功します。

そしてまた場面が変わります。
次の金策のため向かった場所は、にうつのまとめるツチグモ一族の里です。
唐から渡ってきた人々の技術や知識で里には幾らかの蓄えがあることを想像していました。
ところが出会ったにうつは秦一族に再度襲われており、
両手足と目玉を奪われて木にくくられていました。
にうつは人間ではない存在で、その体の一部は高値で取引されます。
(これがどう言う意味なのかは私も良くはわからないのですが……。昔でいう人魚だとか、謎な生物の一部を、薬と称して売ったりする現象を想像していますが、とにかくにうつの体は流通し金に還ることができるようです。)

空海が現れた意味をにうつは理解しており、
空海が何か言う前に、自分の髪の毛を切って金にしろと伝えます。
血を流すボロボロの体からさらに何かを奪うなど、流石の空海の目にも涙が滲みます。
「私たちはこの山(高野山)と里を守ると約束した、そのためには自分を満たしてこい」と、彼の背を押すのです。

一方最澄サイド。
桓武天皇の意向で国に留め置かれていましたが、一転して遣唐使に認められます。
安殿親王が桓武天皇を説得したためです。
安殿親王は薬子が追放されたことに未だ怒り狂っており、
父親も同じように心から信頼している人物が失われればいいと言う思いから、
最澄を遣唐使に派遣すべきだ!と説得します。
「仏教は素晴らしいものですね」
「僕も仏教を熱心に学びたいと思ってるのですよ、父上と同じで」
「そのためにの遣唐使に最澄以外の適任がおりましょうか?」
「あなたの大切な息子がお願いしているのですよ?行かさない道理がありますか?」と、
桓武天皇が最澄を心から頼っていることを知っていて、
上記のような言葉で追い詰める描写があります。
最澄的には結果オーライですが、
相変わらずドロドロとした人々の思惑でいっぱいの宮中模様です。

第四巻 まとめ

遣唐使に向けて動き出す最澄と空海。
一話一話が読み応えと、読み解き甲斐があります。
おかざき先生の抽象的で装飾的な表現が漫画全体に広がっています。
重苦しい場面には、泡の粒がが立ち上るような描写があったり、
文字は浮き上がり、誰かと誰かを繋ぐリボンの描写があったり、
煙が怪しく立ち上っていたり。
台詞の運びで流れていく漫画ですが、
全体に渡る抽象的、装飾的表現を追いかけると、
あの台詞がつながっているんだな、とわかってくる。
おかざき先生の漫画のハマるところです。

ABOUT ME
つきよの
昭和生まれのおひとりさま女性。人付き合い苦手、父親に殴られ男性不審、10年付き合った彼氏にお金を貸して破局、大学中退、うつ、社畜、不当解雇、といった経験を飯の種にして「自分に正直に生きる」をモットーにしています。人生いろいろありますよね。

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