作品感想&紹介

『阿・吽』第二巻レビュー【まだ出会わない最澄と空海。イケオジ天皇が登場】

こんにちは、いぇんです。
本棚にあるものを紹介する、「ぶらっと、本棚シリーズ」です。
おかざき真里先生の漫画『阿・吽』第二巻レビューです。

おかざき先生自身の紹介は下記の記事もご覧下さい!

おかざき真里先生の描く、最澄と空海。女性の感覚で描き出す真理の世界。漫画『阿・吽』1巻レビュー女性漫画家が描く最澄と空海。阿吽の第一巻レビューです。 同世代を生き、交わった二人の青年の阿吽を描き出します。 女性の感覚から捉える真理の世界を、繊細な線と間から感じ取る作品です。...

第二巻の扉絵というか、扉言葉はこちら。

ああ、私は愚か者の中でもっと愚か、狂人の中でも極狂、クズ以下のただの生きもの、最低最下の最澄です。ーー最澄「願文」より

第二巻

最澄ってどん底に暗いですね!それがまたいい。

著:おかざき真里, その他:阿吽社
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第六話 灯

山籠りを始めた位は高い若い僧に期待をして、市井の人々が協力し始めました。
私度僧(しどそう)を志願するものが集ってきます。
私度僧とは、国の許可を得ず勝手に剃髪、出家する一般人のこと。
真面目に仏教を学び人々に貢献したい!という志の高い人もいますが、
「◯◯のもとで修行した!」と言う肩書きを使って商売目的の明らかに意識の低い人間も集まってきます。
不満を言う意識高い系私度僧たちに、
最澄は「人は等しく救わなければなりません」と説いて、
誰一人追い返さず、また山籠りから逃げ出した私度僧に怒りを向けることもしない。

ただ、最澄が見る真理の世界はあまりに遠く、孤高すぎて、
一般人としては学があり志が高い私度僧とはいえど、天才である最澄の前には及ばない。
圧倒的な差と意欲を前にして、真面目に学ぶ意欲のあった者さえ脱落していく。
「あの方の正しさ、光は、毒だ」と表現されています。

第七話 散花天女

山籠りをする最澄をよく思っていないのは最澄の母です。
エリート学校である国分寺に入れるために、関係者と結んだりした描写が暗に描かれています。政治に口を挟めるほどの地位にありながら、俗世を離れ山に篭ると決めた最澄。
悔しさから泣き喚いて罵った母をも、仏教によって救わなければならないと、そんな決意で山に入りました。
そんな母からの刺客として最澄を誘惑するよう依頼されて、無知、無垢な娘が最澄に近づいていました。戒律を破らせて、山を降りてくるよう仕向けるためです。
毎回可愛く誘惑するわけですが、最澄の生真面目な説法に毎回煙に巻かれてしまいます。
でも里に戻ればまた苦しい生活に戻るだけなので、山の中の打ち捨てられた小屋で暮らしていました。
最澄の元で学ぶ私度僧を誘惑し、体を結ぶ代わりに食料を貰っていました。
そんな彼女は熊に捕食されてしまいます。

第八話 慈雨

第八話の引用コマはなしですが、衝撃的な回です。ホラー感満載です。
第七話で女人と通じていた私度僧の男は、熊に襲われ足を怪我をしますが生き延びてはいました。
しかし怪我は悪臭を放ち、蛆がわき、治る見込みは薄い。
苦悶に唸る声を四六時中出し続け、食事は吐いてしまう。厠の世話もしなければならない。
私度僧の中で一番新米の、仏教に関心もなさそうな男が不意に言い出します。
「山の神に託したらいいじゃないか」と。
皆が心の底では思っていた正直な気持ちです。
それを聞いても最澄は、「救います!それでも私は皆を救います!」と叫びます。

孤高すぎて涙がでます。

第九話 薬師如来

第八話で起きた事件。最澄は自身の命を脅かされながらも怪我人を救います。
一寸先も見えない夜の山の中を、怪我人を背負って逃げ惑います。
追い詰められながら、自問自答し続けます。
この男は救う価値がある人間なのか?捨て置けば自分だけは助かるかも知れないのに。
結果その怪我人は凄惨な死を迎え、最澄は無事に生き延びます。
そしてどこかほっとしてしまった自分を自覚するのです。
全ての人を救うと言ったのに。
夜が明けて庵にはまた平穏が戻ったかのような雰囲気になりますが、
朗らかな日差しの中、経典を集めた学びの場が火事で全て消失します。
ここは詳細な描写がないのですが、おそらく最澄自ら火をつけたものと思います。
己の無力さにうちひしがれながら、愛した経典を焼き払う。

火の熱に舞い上がった経典のカケラが、ひらりと舞い落ち、
書かれた言の葉が上記のコマです。

圧倒的な絶望です。
背景は白くて、どこか温かみがあり清々しさもある絵なのですが、
経典オタクだった最澄の元にただ一つ残った言葉が、
最澄の願い、心を殴りつけて与える試練です。
全ての人を、全ての世界を、等しく救う。
そう決めた最澄の初めての挫折と言えます。
激しく咽び泣く最澄の絵は、ブルブルと震えるほど涙が出ました。

第十話 桓武

今更ですが、おかざき真里さんはイケオジを描かせたらトップクラスです。
そのうちイケオジ漫画紹介とかしてみたい。笑
こちらのコマは光仁天皇から、後の桓武天皇に向けての台詞です。

場面は一転して最澄の篭る山から、平城京から長岡京への遷都途中である都へと移ります。
平穏などない宮中の勢力争い、次の日には誰かが死に、地位が逆転します。
光仁天皇は「呆けるか、別の道か。選べ」と耳打ちします。
傀儡として呆けていれば生き延びられると言います。
宮中は生き延びることだけでも大変だと言うことです。
これは貧しさにあえぐ市井の人々とはまた違った生きにくさがあると言うことです。

のちに地位についた桓武天皇は呆ける道を選び、ちゃらんぽらんおじさんとして、
のらりくらりと生きています。
そうやって血生臭い権力争いから距離を取ろうと保身していたのです。
しかし平城京から長岡京への遷都にあたり、寺院への対応を冷遇していました。
女性天皇に近づき天皇の地位を得ようとした道鏡和尚のような事例もあったために、
桓武天皇は仏教への警戒を強めていました。
一方、実の弟である早良親王は寺院育ちであり、仏教や寺院への冷遇が許せず対立します。

ある時、桓武天皇の友であり、遷都を取り仕切っていた藤原種継が暗殺されます。
犯人は遷都に反対していた早良親王に違いないという流れになり、
桓武天皇は実の弟早良親王に罰を与えるよう求められます。
血生臭い権力争いは避けていてもやってくる、どうしても逃れられない。
絶対的な権力を持つ天皇といえど、心から自由に振る舞うことなど出来ないのです。

第十一話 邂逅

桓武天皇は疑いの掛けられた実の弟である早良親王を淡路国へと流刑することになります。
早良親王は無実を訴えて絶食ののち憤死します。
すると早良親王は怨霊となり、桓武天皇の周りに次々に不幸が起こります。
妾、実の母、正妻が次々に亡くなります。
北海道へ軍を送っての征夷はアテルイ軍に奇襲をかけられ大惨敗で死者多数。
都は天然痘の流行で藤原四兄弟が死亡し、他の貴族も没して、宮廷は混乱に陥る。
完成間近だった長岡京では大洪水が発生し、作物は絶望的に。
そこでも病が広がり始める。

この怨霊となって死者どうしが語り合うの様は、
おかざき真里先生らしく、どこかコミカルに描かれています。
しかし笑い事では済まないような不幸の連続。
この世の乱れ、その責任を負わされるのは天皇です。

追い詰められた桓武天皇に出会ったのが最澄です。
救いを求めずにはいられません。
「不安をなくす、と言うのも仏教の役目です」
の言葉に、仏教を警戒していた桓武天皇も縋ります。

第二巻 まとめ

おかざき真里先生は、艶っぽい表現がすごくいいのです。
女の子のあざとさ、思惑、色っぽさを表現するのが上手ですし、
同時にサバサバした女の子を描くとすごくイキイキしている感じがします。
第1巻ではあまり女の子が登場しなかったのですが、
この都が舞台になると、坊主じゃない人がたくさん出てきて読者としても大変嬉しいです。
おかざき先生の絵は細いものがとても綺麗なのです!
髪の毛やリボンとか、そういう細いものがそれに当たるのですが、
坊主にはほら髪が…ないから…その分、衣服の布の質感などでそれを出している感じがします。

そしてイケオジ桓武天皇が出てきました。
和気清麿もまたいい感じのオンジです。いつかコマで紹介できたらいいのですが。

そしてまだまだ出会わないぞ!最澄と空海。笑

ABOUT ME
つきよの
昭和生まれのおひとりさま女性。人付き合い苦手、父親に殴られ男性不審、10年付き合った彼氏にお金を貸して破局、大学中退、うつ、社畜、不当解雇、といった経験を飯の種にして「自分に正直に生きる」をモットーにしています。人生いろいろありますよね。

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